特集重松清のおすすめ小説8選 人間ドラマの名手の傑作を幅広く紹介します
家族や学校などを舞台に、ごくありふれた人間模様や葛藤を繊細に描いた作品を多く手掛け、たくさんの共感を呼んでいる人気作家・重松清。
重松作品は、感情移入しやすく、文章も読みやすいため、泣ける作品が多いのも特徴の一つです。
そこで今回は、重松清の作品をまだ読んだことがない初心者の方向けに、独自におすすめの小説を厳選しランキング形式でまとめてみました。
どれも人気の作品で大変面白いので、ぜひ読んでみて下さい。
『重松清』 とは
経歴や受賞歴
1963年岡山県生まれの重松清は、早稲田大学教育学部を卒業後、出版社に勤務した後、1991年『ビフォア・ラン』で作家としてデビューしました。
1999年に『ナイフ』で坪田譲治文学賞、『エイジ』で山本周五郎賞を受賞したことで、世間の注目を集め、2000年には『ビタミンF』で直木賞を受賞しています。
その後も、2010年に『十字架』で吉川英治文学賞、2014年に『ゼツメツ少年』で毎日出版文化賞を受賞するなど数多くの賞を受賞している日本を代表する小説家の一人です。
作品の特徴や魅力
重松清の魅力の一つと言えば、いたって平凡な人物の葛藤や人間関係を描く親近感にあります。繊細な心理描写も相まって、小説の世界観にたっぷりと浸り、泣ける作品が多いです。小説が訴えるメッセージが心にスッと入ってきて、魂を揺さぶられます。
おすすめ小説 8選
とんび
- 親子愛を描いた感動物語
- 不器用ながら、目一杯の愛情を息子に注ぐ父親の姿が美しい
- 心温まるストーリーで、心が浄化される
妻を不慮の事故で亡くした父親が男手ひとつで悪戦苦闘しながら息子を育てる感動物語。映画化やドラマ化もされた大ベストセラー作品です。
不器用ながら、目一杯の愛情を息子に注ぐ父親・ヤスの人柄がとても魅力的な作品です。何気ない行動や言葉の節々から、息子への愛情を感じて心を打たれます。不器用ゆえに、ヤスの愛情は息子に上手く伝わらないこともあるけれども、息子も愛情をしっかりと感じており、美しい親子愛に読んでいて涙が溢れてきます。
また、ヤスを取り巻く地元の友人たちがとても素敵です。不器用だけども誠実なヤスを慕う仲間は多く、ヤスを心配し、時に厳しく時に優しく接しながら、2人の親子を暖かく見守っている様子がとても美しいです。
息子の成長とともに話が進む本作ですが、テンポよく話が展開していくため、とても読みやすいです。ヤスの友人の一人になり、親子を見守るような目線で読み進めることが出来ます。作品全体から暖かさを感じる作品で、読後は心が浄化された気持ちになるオススメの一冊です。
流星ワゴン
- 家族愛や人生の再生を描いた感動小説
- 父と息子の距離が縮まっていく過程が微笑ましい
- 今を精一杯生きる大切さを教えてくれる
家族愛や人生の再生を描いた長編小説。2015年にテレビドラマ化もされたベストセラー作品です。
生きる意味を見失い、自暴自棄となっていた主人公の前に、5年前に交通事故死した父子の乗る不思議なワゴンが現れ、そこで、自分と同い年の父親と出会います。そして、ワゴンは時空を超え、人生の岐路となった過去の重要な場面を巡る旅へと出ます。
フィクション要素が強く、現実離れした設定でありながら、巧みな情景描写で、状況を頭でイメージしやすいため、小説の世界観に自然と引き込まれます。
父親と息子の綺麗ごとなしの親子愛を感じる素敵な作品です。言葉にして伝え合うことが出来なかった、父の子に対する想いと子の父に対する想い。互いを想う気持ちが徐々に伝わり、親子関係が少しずつ良くなっていく過程がとても微笑ましいです。
また、生き方や家族との接し方について考えされられる作品でもあります。「今この一瞬を後悔がないよう生きていくことが大切」と前向きな気持ちにさせてくれる素敵な一冊です。
きみの友だち
- 様々な人物から見た「友情」を描いた作品
- 包み込むような優しさに満ちた作品
- 「友だちとはなんなのか」とても考えさせられる
足が不自由な恵美ちゃんとその友達との友人関係を描いた作品。映画化もされた人気の作品です。
10編の連作短編集で、各章ごとに「優等生」「八方美人」「クラスの人気者」など1人の人物に焦点を当てその人物から見た友情の形を描いています。
小学生から高校生までの多感な子供が甘酸っぱく描かれているのがポイント。
どの人物も、思春期ならではの心の不安定さや弱さを抱えており、それゆえ、周りと対立したり傷つけてしまうのですが、その人物を否定するのではなく、主人公・恵美ちゃんを通じて優しく包み込んであげる温かさが詰まった作品です。
「友だちとは何なのか」「友だちは必要なのか」をとことん追及する一冊で、様々な示唆に富んでおり、子供から大人まで楽しめること間違いなしです。
その日のまえに
- 死に直面した人々の葛藤を描いた短編小説集
- 死を前向きに捉える姿が美しい
- 今を一生懸命生きる大切さを教えてくれる
表題作を含む全7話が収められた短編小説集。映画化やドラマ化もされた傑作です。
表題の「その日」とは死の日のこと。余命宣告により死が間近に迫ってきたとき、自分の死、家族の死、友人の死に対してどう向き合っていくかを様々な人物の視点から描いた作品です。
死をどう捉え、どう行動するかが人によって異なり、その背景の心理描写が丁寧に描かれているため、それぞれの人物に共感し、感情移入してしまいます。
また、短編集でありながら、それぞれのストーリーが少しずつ繋がってくる展開も見所の一つです。文章も読みやすく、内容がスッと頭に入ってきて心地が良いです。
「死」という重いテーマを扱った作品でありながら、読後感は良く、悲壮感はない作品です。それは、登場人物が死に直面し、悲しみや苦しみを抱くけれども、自分なりに死を前向きに捉えている点にあると思います。読んでいて、辛く涙が溢れてくる時もありますが、優しさや温かみも感じる素敵な作品です。
ナイフ
- 「いじめ」を題材にした全5話からなる短編小説集
- いじめと戦う子供の姿が心を打つ
- 苦悩と葛藤の末、見えてくる光が美しい
全5話からなる短編小説集。1話を除いて「いじめ」を題材にした作品で、いじめの描写はかなり凄惨で生々しいです。しかし、だからこそ、今現実に起こっている「いじめ」の実態に非常に近いのだと感じます。
本作は、いじめられる側の子どもの視点から展開されます。いじめられる子供、その子供の家族、いじめを見ていながら手を差し伸べない傍観者など、様々な人物の心理描写がリアルに描かれているため、どの人物の苦悩や葛藤にも感情移入してしまいます。
そして、陰湿で卑怯ないじめに対して、子供が正面から向き合い、家族とともに戦う姿には涙があふれてきます。
胸が苦しくなって、ときには読む手を止めてしまうほど、終始、重いムードで展開される本作ですが、救いがあるのは、決してハッピーエンドとまではいかないけれど、僅かな希望が描かれているところにあります。
いじめがなくなって幸せが降ってくるというありきたりな展開はないですが、暗闇の中で、もがいてもがいてやっと見えてきた僅かな光がとても丁寧に描かれているから、大きな感動があります。いじめの残酷さを再認識する意味でも、ぜひ読んで頂きたい一冊です。
ビタミンF
- 中年に差し掛かる男達が悪戦苦闘する短編小説集
- ハッピーエンドとは言えないラストが味わい深くて良い
- 前向きな主人公から勇気を貰える
7つのストーリーからなる短編小説集。どの話も、30代後半の男性を主人公としており、父親であり、夫であり、息子である彼らの悩みや葛藤、苦悩が描かれています。ちょっと重たい話もありますが、全体的に心温まる作品です。
子どものいじめ、男女関係、年老いた両親との関係性など、どこの家庭でも抱えていそうな問題を取り上げているため、リアリティがあり共感できる部分が多いです。特に、主人公と同年代の方には刺さる作品だと思います。
問題を解決してハッピーエンドで終わらない現実的な点が、この作品を特徴づけています。ただ、完全に解決とはいかないまでも、少しの光明が見えてくる点に救いがあり、読後はスッキリとした爽快感があります。
また、様々な悩みを抱えながらも、前に進んでいこうとする主人公の姿に、胸が熱くなり、心が震えます。
若さに限りが見え体力が衰えてくる中で、仕事での重圧に耐えつつ、家庭も支えなくてはならない40代に差し掛かる男たちが悪戦苦闘する姿から、「自分も頑張ろう!」と勇気がもらえる素敵な作品です。
カカシの夏休み
- 辛い現実と葛藤する姿を描いた小説集
- 心理描写が繊細で主人公に自然と感情移入出来る
- 希望を持てるラストが良い
表題になっている『カカシの夏休み』のほか、『ライオン先生』、『未来』の中篇3作が収められた小説集。
3つの物語はそれぞれ、「帰りたい場所」「歳をとること」「死」がテーマで、3人の主人公の生き方を描いた作品となっております。主人公は皆、辛い事情や問題を抱えており、その現実にどう向き合うか葛藤する姿が描かれています。
物語は、誰の身に起こってもおかしくないような日常を描いた作品です。そのため、劇的な展開やアッと驚く結末はなく、淡々と日常が過ぎていきます。それでも、主人公の葛藤がとても繊細に描かれていて、共感できる点が多いため、自然と話に引き込まれます。
決して、ハッピーエンドとは言えないけれども、希望が持てる終わり方を迎えるのもポイント。楽な人生ではないけれども、前を向いて進んでいく主人公の姿に胸を打たれます。
『カカシの夏休み』と『ライオン先生』は中年にさしかかる30代後半から40代の男性を主人公に据えた作品となっており、特に同世代の方におすすめの作品です。
くちぶえ番長
- 転校生の女の子とクラスメイトが繰り広げる友情物語
- 弱気を助け強気を挫く転校生・マコトがカッコイイ
- マコトに感化されて成長していくクラスメイトがポイント
転校生の女の子とクラスメイトが繰り広げる温かくてほろ苦い友情物語。
小学4年生のツヨシのクラスにやってきた転校生のマコト。彼女は転校早々に学校の番長になると宣言します。
そんなマコトの言動にツヨシをはじめクラスメイトは戸惑いますが、正義感の強いマコトの姿は次第に周囲に影響を与えていきます。
弱気を助け強気を挫くマコトがとにかくカッコイイです。家庭環境やいじめとの向き合い方、友達との関係性など多くの示唆に富んでいる点においても非常に読み応えがあります。
マコトに感化されて成長していくツヨシやクラスメイトがポイント。同年代の子供はもちろん大人にもオススメの一冊です。
おすすめ小説8選 作品一覧
重松清の新刊 / 新作最新情報をチェックしてみよう
カモナマイハウス
発売日:2023/7/20 電子書籍:〇 文庫本:×
はるか、ブレーメン
発売日:2023/4/5 電子書籍:〇 文庫本:×
- 走馬灯で浮かぶ絵を描く不思議な能力を巡る物語
- 主人公の春香が成長していく姿が丁寧に描かれていて素敵
- 人生の儚さと美しさが身に染みるのがポイント
主人公は高校2年生の小川春香。幼いころに母親に捨てられ祖母に育てられた春香でしたが、祖母すらも亡くし身寄りのない孤独な日々を過ごしていました。
そんな彼女のもとに、人生の最後にみる走馬灯で浮かぶ絵を描くブレーメン・ツアーズという会社から手紙が届きます。友人のナンユウとともに会社を手伝うことになった春香。二人には人の走馬灯が見える不思議な能力が宿っていたのでした。
春香とナンユウが不思議な能力を通じて、死にゆく他人の人生と向き合う中で、自らの人生とも向き合い成長していく姿が描かれた作品です。
春香が幼いころに自らを捨てた母親と向き合い、母親への思いが変化していく過程がとても丁寧に描かれています。
人生の儚さと美しさが身に染みるのがポイント。読者自身が自らの人生と向き合いながら読み進める重厚さと温かさを兼ね備えた珠玉の一冊です。
重松清の作品を読んでみよう
重松清のおすすめ小説をランキング形式で紹介いたしました。いかがでしたでしょうか。
今回は代表作から最新作まで幅広く紹介しましたが、他にも多くの人気作品があります。
電子書籍化や文庫本化されている作品も多いので、気軽に面白いと思った一冊を手に取り、読んでみてはいかがでしょうか。お気に入りの作品がきっと見つかるはずですよ。
この記事を書いた人
東京都文京区在住のけんぞうです。
本が大好きで、自分が読んで面白かった本などを中心にWEB編集者として様々な情報を発信しています。
ぜひ、本の出品をお待ちしております。