特集吉田修一のおすすめ小説10選 読者の心を掴んで離さない圧倒的なストーリー
純文学の芥川賞と大衆文学の山本周五郎賞を同年に受賞するなど、幅広い作風で高い評価を得ている大人気作家・吉田修一。
あっさりと読める短編集から重厚な長編小説やシリーズものまで、これまで数多くの作品を世に送り出しています。
そこで今回は、吉田修一の作品をまだ読んだことがない初心者の方向けに、独自におすすめの小説を厳選しランキング形式でまとめてみました。
どれも人気の作品ばかりなので、ぜひ読んでみて下さい。
『吉田修一』 とは
経歴や受賞歴
吉田修一は1968年長崎県出身の小説家です。法政大学経営学部を卒業後、1997年に『最後の息子』で文學界新人賞を受賞し、小説家としてデビューしました。
2002年には『パレード』で山本周五郎賞、『パーク・ライフ』で芥川龍之介賞を同時受賞したことで、大きな話題を呼びました。
その後も、2007年に『悪人』で毎日出版文化賞と大佛次郎賞、2010年に『横道世之介』で柴田錬三郎賞、2019年に『国宝』で芸術選奨文部科学大臣賞と中央公論文芸賞をそれぞれ受賞するなど、
数多くの受賞歴を有する日本を代表する人気作家の一人です。
作品の特徴や魅力
吉田修一作品は、斬新なストーリー展開がとても魅力的です。予想を裏切られる展開や意外な方向へと進んでいくストーリーから目が離せません。
また、心理描写が細やかで感情移入しやすい点や魅力的なキャラクターが多いこと、構成力の高さなども魅力です。
おすすめ小説 10選
怒り
- 殺人犯の疑念が生じた3人と周囲との人間関係の揺らぎを描く
- 誰が犯人なのか、気になって仕方がない
- 細かい心理描写に圧倒される
殺人犯の疑念が生じた3人の男と、周囲の人との人間関係の揺らぎを描いた作品。映画化もされた吉田修一の代表作の一つ。
八王子郊外で発見された若い夫婦の惨殺死体。犯人の名前と年齢は分かっているものの、足取りをつかめず、捜査は暗礁に乗り上げていました。
それから1年後、千葉、東京、沖縄に身元不詳の3人の男が現れます。3人はそれぞれの土地で徐々に人間関係を築いていきますが、警察が事件の犯人の整形手術後のモンタージュ写真を公開したことを機に、状況は大きく動き出していきます。
3人のうち誰が犯人なのか。それとも、別に犯人がいるのか。事件の核心に少しずつ近づいていく展開に心をくすぐられ、ページをめくる手が止まりません。
そして、その先に待ち受ける衝撃の結末。心を揺らぶられる一冊です。
本作は、3人を信じていいのか周囲の人の心の葛藤が繊細に描かれているのがポイント。細かい心理描写に圧倒されます。上・下の2巻構成からなる重厚な作品で、おすすめです。
悪人
- 駆け抜けるように進んでいくストーリーは圧巻
- 事件の真相に着実に迫っていく展開が面白い
- 悪人は一体誰なのか、考えさせられる作品
毎日出版文化賞と大佛次郎賞をダブル受賞した吉田修一の最高傑作との呼び声高い一冊。映画化され大ヒットを記録したことでも有名です。
保険外交員・石橋佳乃が何者かに殺され、交際相手に殺人容疑がかかります。しかし、捜査の過程で、真犯人は別にいることが明らかになります。
一方、佐賀市内に双子の妹と暮らす馬込光代は、平凡な生活に嫌気がさし、出会い系サイトに登録します。そこで知り合った男に恋に落ちた光代でしたが、その男から殺人を犯した過去を打ち明けられます。
男は自首しようとしますが、光代は男を引き留め、2人は逃げることを決意します。
一つの殺人事件を発端に、多くの関係者が登場し、複雑に人間模様が絡みながら、駆け抜けるように進んでいくストーリーは圧巻。事件の真相はどこにあるのか。着実に核心に迫っていく展開はワクワクが止まりません。
そして、2人の逃避行の先にあるものは何なのか。目まぐるしく悪人が移り変わっていく展開に、本当の悪人とはいったい誰なのか、とても考えさせられる作品です。
国宝
- 芸道に人生を捧げた若者の青春物語
- 波瀾万丈で起伏に富んだ展開が面白い
- 読後は感動が押し寄せる
芸の道に人生を捧げた熱き若者たちの青春物語。芸術選奨文部科学大臣賞と中央公論文芸賞をダブル受賞した傑作です。
主人公は長崎の極道一家で生まれ育った喜久雄。喜久雄は、抗争で死んだ父親の復讐が失敗したことがきっかけで歌舞伎の世界へ飛び込みます。
その後、歌舞伎に魅了された喜久雄は、名家の血筋である俊介とライバル関係になりながら、芸に真摯に向かい確実にその腕を上げていきます。
物語は、10代で歌舞伎の世界に入った喜久雄が、厳しい世界で研鑽を積み、這い上がって行く姿を時系列に沿って描いた作品です。波瀾万丈で起伏に富んだ喜久雄の人生がとても面白いです。人生の浮き沈みがしっかりと描かれているため、リアリティがあり、物語に引き込まれます。
そして、読後は、喜久雄の人生を存分に堪能した感動が心の底から湧き上がってきます。上下の2巻からなる重厚な作品でとてもおすすめです。
横道世之介
- 笑いあり涙ありの素敵な青春物語
- 『横道世之介』のキャラクターが魅力的
- 過去と現在を行き来する構成が良い
バブル期の東京を舞台に、大学進学のため、長崎から上京してきた18歳の横道世之介が様々な人々と出会い関わっていく大学生活を描いた青春物語。本屋大賞3位に入賞し、映画化もされた大ヒット作品です。
世之介の視点から大学生活の1年間を描いた展開と、時が経過し、大人になった世之介の友人たちの視点から世之介を回顧する展開の二つのストーリーが並行して進んでいきます。
過去と現在の二つの時系列を行き来する構成が、味わい深くてとても良いです。社会人として世間の荒波にもまれる現在との対比で、大学生活がかけがえのない青春時代として光り輝いています。
そして、何より世之介のキャラクターが魅力的なのがポイントです。自然体で、誰からも愛される世之介には、多くの仲間が集まってきて、いつも笑いに包まれています。そんな、世之介と仲間たちが織りなす大学時代のエピソードはどれも心が温まります。世之介の仲間たちが大人になっても、世之介から少なからず影響を受けているのが、とても素敵です。
笑いあり涙ありの素敵な青春物語です。ぜひ、続編の『続 横道世之介』と併せて読んでみて下さい。(『続 横道世之介』は『おかえり 横道世之介』に改題の上、文庫本化されています。)
パレード
- ルームシェアをする男女5人の物語
- 徐々に不気味な方向へと進んでいくストーリーが面白い
- 衝撃のラストが待ち受ける
ルームシェアをする男女5人の若者達を描いた作品。山本周五郎賞を受賞した著者の代表作の一つです。
物語は、5人それぞれの視点をリレーしながら、何気ない日常の出来事が描かれており、大きな起伏があるわけではなく、比較的単調に進みます。それでも、5人それぞれに独特な個性があり、やり取りが軽妙で面白いため、自然と小説の世界観に引き込まれます。
同じ人物や事象でも、視点ごとに捉え方が異なっており、複数の視点を通して、人物像や事実関係が形成されていく展開が面白いです。視点が変わるたびに、この人からは周囲がどう見えているのか気になってワクワクします。
この物語のポイントは、5人が居心地の良いルームシェアの空間を守るため、お互いに踏み込みすぎないという暗黙の了解があるところです。表面上は仲良くしますが、都合の悪いところには触れないという関係性があります。
そして、その関係性ゆえ、物語は徐々に不気味な方向へと舵を切っていきます。意外な展開と衝撃のラストをぜひ味わってみてください。
路
- 台湾新幹線の開業に至るまでの険しい道のりを描いた感動小説
- 前向きで高い志を持つ登場人物が魅力的
- 美しい台湾の情景が頭に浮かんでくる
日本と台湾を舞台に、台湾新幹線の開業に至るまでの険しい道のりを描いた感動小説です。2020年には、NHKと台湾のテレビ局の共同制作で、テレビドラマ化され、両国で放送されたことでも話題になりました。
物語は、日本企業が台湾新幹線プロジェクトの入札に成功し、開業に至るまでの8年間を時系列に沿って描いております。プロジェクトに関わる様々な登場人物の視点から物語は展開していき、彼らのプロジェクトへの関わりと人間模様を描いています。
様々な困難に直面しながらも、懸命に前を向き、突き進んでいく姿が胸を打ちます。登場人物が皆、前向きで高い志を持っていて、とても魅力的です。各登場人物の人物描写の掘り下げも丁寧に描かれているため、感情移入して応援する気持ちで読み進めることが出来ます。
また、吉田氏の台湾への愛情と造詣の深さが節々から垣間見えます。台湾の雰囲気・情景や、台湾人の優しさ・温もりが文面からひしひしと伝わってきます。
場面転換が多いですが、構成力が高く、話の切り分けが上手いため、スッと内容が頭に入ってきます。とても前向きな作品なので、楽しい気持ちで読める一冊です。
犯罪小説集
- 罪を犯した人の心情や背景に焦点を当てた作品
- 普通の人が狂っていく過程が恐ろしい
- 余韻が残る結末が印象的
人はどんなとき一線を越え罪を犯すのか。を描いた5つの短編が収められた作品。映画『楽園』は、本作の『青田Y字路』と『万屋善次郎』がベースとなっています。
「青田Y字路」は、ある日、田舎の一本道の先にあるY字路で、少女が下校途中に行方不明になります。必死の捜索が行われたものの、結局少女が帰ってくることはありませんでした。
それから、10年後、同じY字路で再び少女が行方不明になったことから自体は一転します。
本作は、罪を犯した人の心情や背景に焦点を当てた作品です。いたって普通の人が、人生の歯車が少しずつ狂っていき、犯罪に手を染めるまでの過程が生々しく描かれていて、恐怖を感じます。また、人間の弱さや悲哀がとても切なく描かれています。
結末も余韻が残る独特なものであるため、とても心に残る一冊です。
太陽は動かない
- 産業スパイとしての活躍を描くシリーズ1作目
- 冷静に任務を遂行していく主人公がカッコイイ
- ハラハラドキドキの連続
鷹野一彦が産業スパイのエージェントとして暗躍する姿を描いた作品。シリーズ3部作の1作目です。
本作は、鷹野と相棒の田岡が、宇宙太陽光発電に係る画期的な技術情報を入手し、国や企業に高値で売りつけようと暗躍する中で、産業スパイ同士の熾烈な情報戦に巻き込まれていくスリリングなアクション劇です。
日本、中国、モンゴルなど世界を股にかけた壮大なアクション劇がとにかく面白いです。敵なのか味方なのか、騙しているのか騙されているのか、様々な思惑が複雑に絡み合った展開からは目が離せません。
そして、敵に翻弄されながらも、冷静に任務を遂行していく鷹野がカッコイイです。また、冷酷な産業スパイの世界で、優しい心を持つ鷹野の姿がとても素敵です。
鷹野を応援しながら、ハラハラドキドキの緊張感を楽しめる、おすすめの一冊です。
森は知っている
- 産業スパイとしての活躍を描くシリーズ2作目
- ド派手なアクション劇が面白い
- 手に汗握る緊張感
鷹野一彦が産業スパイのエージェントとして暗躍する姿を描いた作品。シリーズ3部作の2作目です。
本作は、17歳の鷹野が過酷な生い立ちや厳しい訓練を乗り越え、正式に産業スパイのエージェントになるまでを描いたエピソード0的な位置付けにある作品です。幼少期に親から見捨てられ、産業スパイとなることが宿命づけられた過去を辿る物語と産業スパイとしてミッションに当たる現在の物語が描かれています。
見所は何と言っても、産業スパイとしてミッションをこなす展開です。敵の裏をかくスケールの大きなド派手なアクション劇は手に汗握る緊張感に満ちており、一気に話に引き込まれます。
シリーズ2作目ですが、1作目より時系列が過去のため、本作から読み始めても、十分楽しめる一冊です。
おすすめ小説10選 作品一覧
No. | タイトル | 画像 | 商品リンク | ポイント | 電子書籍 | 文庫本 | 文章量 | 出版社 | 発売年 | 1 | 怒り | 誰が犯人なのか、気になって仕方がない | 〇 | 〇 | 310ページ | 中央公論新社 | 2016年 | 2 | 悪人 | 駆け抜けるように進んでいくストーリーは圧巻 | 〇 | 〇 | 480ページ | 朝日新聞出版 | 2018年 | 3 | 国宝 | 芸道に人生を捧げた若者の青春物語 | 〇 | 〇 | 407ページ | 朝日新聞出版 | 2021年 | 4 | 横道世之介 | 笑いあり涙ありの素敵な青春物語 | 〇 | 〇 | 467ページ | 文藝春秋 | 2012年 | 5 | パレード | ルームシェアをする男女5人の物語 | 〇 | 〇 | 309ページ | 幻冬舎 | 2004年 | 6 | 路 | 台湾新幹線の開業に至るまでの道のりが険しく感動的 | 〇 | 〇 | 475ページ | 文藝春秋 | 2015年 | 7 | 犯罪小説集 | 罪を犯した人の心情や背景に焦点を当てた作品 | 〇 | 〇 | 384ページ | KADOKAWA | 2018年 | 8 | パーク・ライフ | 芥川賞を受賞した傑作 | 〇 | 〇 | 177ページ | 文藝春秋 | 2004年 | 9 | 太陽は動かない | スパイ同士の熾烈な情報戦がスリリングで面白い | 〇 | 〇 | 441ページ | 幻冬舎 | 2014年 | 10 | 森は知っている | 産業スパイが壮大な任務をこなしていく展開が面白い | 〇 | 〇 | 305ページ | 幻冬舎 | 2017年 |
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永遠と横道世之介
発売日:2023/5/26 電子書籍:〇 文庫本:×
- 『横道世之介』三部作の完結編
- 相変わらず人が良い世之介に安心感を感じる
- 笑いあり涙ありの読み応え十分の一冊
『横道世之介』三部作の完結編。上下巻の2冊構成です。
長崎から上京した横道世之介の大学生を描いた第一作、20代半ばのフリーター生活を描いた第二作に続き、本作では39歳になった世之介の一年間を描いています。
39歳になり、フリーのカメラマンとして生活している世之介が暮らすのは、東京郊外にある下宿「ドーミー吉祥寺の南」。
家主のあけみと事実婚の関係にある世之介は、彼女や個性豊かな下宿仲間たちと様々なドラマを繰り広げていきます。
年を重ねても相変わらず人が良い世之介に安心感を感じます。また、世之介を取り巻く他の下宿人達も人が良く、彼らが繰り広げる人間ドラマは人情味にあふれていて心が温かくなります。
世之介はもちろん、他の登場人物もしっかりと人物像が深堀されており個性がはっきりとしているのがとても魅力的です。笑いあり涙ありの読み応え十分の一冊です。
ミスサンシャイン
発売日:2022/1/7 電子書籍:〇 文庫本:×
- 昭和の大女優・鈴さんと大学院生との交流を描いた感動小説
- 鈴さんの高貴な人柄が素敵
- 鈴さんが紡ぎ出す言葉の一つ一つが深い意味を持っている
80歳を迎えた昭和の大女優と大学院生との交流を描いた感動小説。
大学院生の一心は、伝説の映画女優・和楽京子こと鈴さんの自宅で荷物整理のアルバイトをするようになります。
荷物整理に合わせて辿っていく鈴さんの過去。そこには、華々しい経歴からは想像もできない悲しい日々がありました。
一心と鈴さんの穏やかな日々と一心と恋人との慌ただしい日々が交互に描かれながら物語は進んでいきます。実在した人物名を用いて昭和の映画史が綴られているため、鈴さんも実在した人物かのようなリアリティがあります。
鈴さんの高貴な人柄がとても素敵です。様々な人生経験を経た鈴さんが紡ぎ出す言葉の一つ一つが深い意味を持っており、一心、そして読者の心に刺さります。
吉田修一の作品を読んでみよう
吉田修一のおすすめ小説をランキング形式で紹介いたしました。いかがでしたでしょうか。
今回は代表作から最新作まで厳選して紹介しましたが、他にも多くの人気作品があります。
電子書籍や文庫本化されている作品も多いので、気軽に面白いと思った一冊を手に取り、読んでみてはいかがでしょうか。
この記事を書いた人
東京都文京区在住のけんぞうです。
本が大好きで、自分が読んで面白かった本などを中心にWEB編集者として様々な情報を発信しています。
ぜひ、本の出品をお待ちしております。